市町村時代の住民自治組織



はじめに


 東京の街を歩いていると、日本は本当に景気が悪いのだろうかと疑問に思うほど、巨大ビルの建築ラッシュが続き、人々はハッピーそうで不況はどこ吹く風の様子である。一方、地方の小町村では、来年3月末には、合併特例法が期限切れになるので、合併するか、単独で生き残りをかけるか、最終判断の時期が来ている。

 2004年度、実質的な地方交付税が前年度比で12%削減され、財源不足により予算が組めない自治体も出てきた。また、地方財政を決定する三位一体改革(税財政改革)がはっきりしない。市町村は厳しい財源状況から脱するためには合併しかないと、合併の枠組みや財政措置だけに目が行く。合併が行政効率化に結びつかない矛盾をはらむ。合併に誘う手段として多額の交付税や地方債を投入するゆえに、議員や職員削減を先送りするなどリストラ効果が見られない。合併を自己改革の契機と捉えていないのだ。合併特例債も借金に変わりない。合併してもしなくても、行政はスリム化に取り組むことだ。これまでのひとり勝ちの行政のあり方を問い直し、住民と共に意識改革を行い行動することである。問われるのは地域の主体ある自治経営能力である。

 私は、融通無碍な自由な発想や行動力から地域課題に挑戦する地域リーダーを調査してきた。その事例の中から、平成の大合併に対応して、他力本願とせず殊に「住民自治」に尽力している「意志が感じられるまち」を紹介してみたい。

新市・広島県安芸高田市「まちづくり委員会」


 04年3月1日、広島県北の高田郡6町がひとつとなり「安芸高田市」が誕生した。高田郡は昔からまとまりがあり、介護保険についても、郡広域連合では認定だけでなく財政まで取り組む珍しい例。それでもトップが6人で、合意や判断に時間とコストがかかるので、合併し将来に備えることにした。合併のテーマは「住民自治のまちづくり」で、新市では高宮方式と呼ばれる自治体内分権をはかり、住民自治組織を基本に据えた「地域振興会」による地域経営をめざす。合併した旧6町の一つ高宮町には隣接する広島市との合併を望む人もいたが、8つの住民自治組織「地域振興会」の20年以上にわたる活動実績から、大都市との合併は住民自治のまちづくりの継続が困難と考えた結果だ。

 新市での地域審議会の設置は議会の下に議会を作る無駄な組織であるとして設けない。市会議員は地元地域と全市のことを考え、地域振興会からなる「まちづくり委員会」は地域づくりをしっかり議論するユニークな仕組み。各地域の振興会正副会長が「まちづくり委員会」に参加し、議論したことを地域に持ち帰り、バックの住民組織が中心となり地域づくりが実践する仕組みである。振興会役員は無報酬であるゆえに行政や住民に信用される。高宮方式は住民自治組織と議会、行政のトライアングルによる地域づくりを進める。

 「平成の大合併」は、これまで地域づくりを行政任せにしてきた住民にとって、「住民自治元年」に変えるチャンス。また、住民自治の実現には時間がかかるため、有期の組織リーダーである首長や議員が長期的な住民リーダーや組織を育てていくなどの戦略により、将来的に持続力のある住民自治による地域経営に備えることができる。

長野市松代町・NPO夢空間「松代の町と心を育てる会」


 66年、松代町は長野市に編入合併され、辺境となり地域活力は失われ人口減少と高齢化が進んだ。しかし、現在の松代町は、住民が中心となって歴史を掘り下げ、磨き上げた結果、城下町の面影が残る詩情豊かな町を実現した。合併で失われた地域活力を住民自治が蘇らせた町として注目を浴び視察が絶えない。

 合併によって身近な自治が遠のいたことを象徴する話は、真田家別邸のある史跡公園の公衆トイレの完成に10年を要したこと。支所は窓口業務だけで継続的に町の将来の考えてくれる職員がいない虚しい現実に直面した。これが契機となり、行政に頼るばかりでなく、自分たちでできることをまずやるという住民自治意識に目覚めた時、未来への道は見えた。

 若手商業者のまちおこし「信濃の國松代藩」、木町まちづくり協議会・景観協定の実施、「信州松代まるごと博物館構想」、商工会議所の「城下町松代街並み景観賞」の創設など継続した事業により、町は落ち着いた佇まいを醸し出した。特産品づくりのグループ「ホイサッサ松代」や「輝きネットワークわっしょい」、宅老所「あったかいご」など住民自治組織が次々と誕生し、02年、住民の力を地域総体の力にしていくために、NPO夢空間「松代のまちと心を育てる会」が発足、歴史や景観への気づきから住民自治による地域経営が本格的なものとなった。視察への対応はもちろん、市が松代町を全国にPRする「エコール・ド・松代2004」もNPOが中心となって動いている。市は松代町が住民自治から町の活気を取り戻したことから、全域をブロック単位に分け、地域総合事務所と地域活動組織(まちづくり協議会)を設置し活性化を図る。

 合併後の地域の活性化は住民自身の取り組み如何にかかっていることを松代の例は示している。また、市が設置した地域活動組織は従来どおりの人選によるため、自発的な住民自治を阻害する恐れも出てきた。行政が地域自治組織を推進することで、自己財源による住民の自発的活動を封じてしまう可能性もある。因みに私は自発する住民自治組織と、国による合併推進のための「地域自治組織」制度を使い分けるために、自発的住民活動を「住民自治組織」と呼び使い分けている。

鳥取県智頭町・全国唯一の集落型NPO法人「新田むらづくり運営委員会」


 住民自身で集落を守ろうとNPO法人による「集落自治の実現」を目指しているのは智頭町新田地区だ。山間へき地の小さな集落は、合併で行政区域が拡大すれば見捨てられる運命。行政にすがっていては消滅が目に見えていると、集落全員でNPO「新田むらづくり運営委員会」を設立した。「日本一小さな自治体をつくりたい」との思いから、集会所を兼ねた宿泊研修施設「新田人形浄瑠璃の館」や飲食店「清流の里・新田」をNPOで経営している。年間収入は1000万円程度だが、集落維持のための基金(目標1億円)づくりは始まっている。最近、外部の優れた発想と行動力を持つ人材を公募している。

 NPOにした理由は、経理の透明性と財団などの資金援助が受けやすいこと。無償ボランティアでは長続きしないなど、地域活動は利益が出なければ集落は消えてしまうサバイバルな時代。現行のNPO法ではメリットは少ないが、将来の税制改正を見据え、活動をきちんとしていれば、個人や企業の寄付は増えるともくろむ。新田ではカルチャー講座を毎月1回開催、この4月で48回を数える。「井の中の蛙になっては、時代の流れやニーズを的確につかむことができず結果的に取り残されてしまう」という危機感から、多くの著名人や専門家を招き、集落住民はこぞって参加し、時代の感覚をつかみ事業展開に生かす。住民自治で大切なことは、自分の力で自分を養う経済基盤で、どんなに立派なことをしても収入がないと崩れると話す。

山梨県須玉町・NPO「文化資源活用協会」


 NPO「文化資源活用協会」は、一般的な文化財のほか、住民を含めて地域にあるすべてを文化資源と考え、それらを活用する事によって地域の多様な問題に対処してことを目的として設立された。主に埋蔵文化財の従事者を核として設立されたので、調査研究、復元修理、出版、展示、映像記録などの得意分野を持ち、住民自らホームページのサーバをもち情報を発信している。このNPOは町の資料館の管理委託から、空き家や耕作放棄地の再生など、コミュニティの活性化をめざす新しい住民自治組織として視察は多い。さらにNPOでは、住民自治組織からの地域経営に挑戦している全国事例を取材してビデオ作品・シリーズ「町の意志が感じられる町」の制作を進める。すでに「広島県高宮町」をはじめ「北海道ニセコ町」「長野県野沢温泉村」「長野市松代町」「鳥取県智頭町」の5事例9本の編集を終えた。送料のみで貸し出しているので利用して欲しい。

問い合せ:NPO「文化資源活用協会」
〒407-0322 山梨県北巨摩郡須玉町下津金2963
TEL:0551-20-7100 FAX:0551-20-7105 http://www.stm.ne.jp/~bunka/

まとめ


 国は駆け込み合併を促しているが、準備がなければ合併しても地域崩壊となる可能性は高い。特例債などで一時的には財源は確保できても借金に変わりない。過疎の村同士が合併しても財政は豊かにならないし、大都市と合併すれば、周辺部となる農山村の人口流出は歯止めがかからない。地域は国の政策に振り回されるのではなく、行政マンひとり一人が武器となる地勢を読み、コスト意識を持ち、住民と一緒になって地域経営できる仕組みを育てることだ。住民自身もIT等を使って全国ネットワークを築き、必要な情報を得て、地域課題のローコストな解決をめざしていくべきである。行政は住民側に立ち、公的施設の運営をNPOなど住民自治組織にまかせることによって、コスト意識や地域愛着、雇用増加など地域経営に参画させることができる。住民自治による効率的な「小さな政府」は理想的なまちづくりを実現できる。人間は理想があってこそ、目が輝き、自分の人生の道も見えてくる。合併問題を契機として、住民と行政が一緒になり理想の地域社会像を描き、しっかりとした人間の絆を築けば、未来永劫のまちづくりを実現できるチャンスである。

 またこのことは従来から近隣関係の深い地方小規模市町村こそ住民自治の下地はあるわけで、これまでの「なんでも大都市優位」のレッテルをはがすチャンスとも考えられる。

 さらに上記事例でもNPOによる住民自治は多く選択されており、交付税や過疎債などの時限的な釣り球よりは、本来なら平成の大合併と時期をあわせて、NPOの税制優遇措置も三位一体の中で行うなどの国策リンケージがあってしかるべきではないだろうか。

 ともあれ「住民自治は与えられるものではなく、自ら行動して戦いとるものである」ということは、各地を歩いて感じた共通した原理である。

 (「群馬自治」4月号)

0 件のコメント:

コメントを投稿