市町村合併の時代に生き残るため地域経営


~自分が自分であるための地域自治組織~

地域社会の可能性は無限にあるが、住民の力が十分に発揮されているケースはまだごく少ない。国の合併論に迷わず、住民自身がしっかりと町の文化や歴史を見つめ、想像力と強い意志、継続性のある実行力で、魅力あり暮らしやすい「意志がある町」を作ることが必要である。これまで合併や産業構造の変化、過疎によって、農山村地域は苦境に立たされ、コミュニティの崩壊が起きた。こうしたコミュニティの消滅は、都市住民にとっても「ふるさと=心の拠りどころ」を失う大変な損失となっている。

 これまでも農山村地域の存続の危機は歴史上、たびたび訪れ、それを乗り越えてきた地域社会もある。現在、国地方の財政危機、過疎、合併などの課題をどのような方策で乗り越えるべきかを考える時、生き残り策のひとつが住民自治組織による住民自治の実現である。100年以上の歴史を持つ長野県野沢温泉村の地縁団体法人「野沢組」、合併でなくした地域社会の活力を住民自治によって復活させた長野市松代町から、「自分が自分であるための住民自治組織」のあり方を紹介したい。

長野県野沢温泉村・地縁団体法人「野沢組」


 野沢温泉村には、江戸時代からの地域組織「惣」が今でも継承されている。七七0戸からなる地縁団体法人「野沢組」がそれであり、水路や道路の管理、祭りなどの年中行事を組み込み、村の生活全般を取り仕切っている。素早い対応や行政の補助金を当てにしない姿勢は伝統的精神である。歴史は室町・鎌倉時代まで遡る。代々庄屋が合議をして決めていた組の代表の「惣代」は、明治三年から衆望のある人を選ぼうと、一年交代の公選となった。予備選挙で上位五名が選ばれ、その後地区の代表者による本選挙が行われる。二つの選挙があるのは、本選挙での圧倒的な支持を背景にして「惣代」の指導力が発揮できるようにするためである。

 「惣代」の権限は大きく、年間三二〇日も勤めるという激務。副惣代二人が補助し、さらに若い才能を見つけると、惣代の秘書とし、村全体を高所から学ばせ未来へ備える。野沢組の仕事は、文書管理(江戸時代からの古文書の伝承保存)、温泉管理、式典祭事(道祖神祭り、夏祭り)、林野道路、堰管理、土地管理等。昔から続いている日誌には、住民自治の記録が正確に残っている。

 きめの細かい住民自治を野沢組が行うことができるのは、豊かな財源が基盤にあるからだ。かつては山林経営が経済基盤、近年の林業不振にあっても、村営スキー場の地代収入、温泉使用料、組の会費などで1億円近い収入がある。日常生活に関わることを行政に任せないで、自分たちでできることはすることにより、暮らしの情報が得られ、住民間に強い絆が生まれる。野沢組は、歴史や伝統を現代に合った形で正しく生かしながら、村の人達の暮らしを隅々まで空気のように守っている住民自治組織のモデルである。

長野市松代町・NPO夢空間「松代の町と心を育てる会」


 66年、松代町は長野市に編入合併され、辺境となり地域活力は失われ人口減少と高齢化が進んだ。しかし、現在の松代町は、住民が中心となって歴史を掘り下げ、磨き上げた結果、城下町の面影が残る詩情豊かな町を実現した。合併で失われた地域活力を住民自治が蘇らせた町として注目を浴び視察が絶えない。

 合併によって身近な自治が遠のいたことを象徴する話は、真田家別邸のある史跡公園の公衆トイレの完成に10年を要したこと。支所は窓口業務だけで継続的に町の将来の考えてくれる職員がいない虚しい現実に直面した。これが契機となり、行政に頼るばかりでなく、自分たちでできることをまずやるという住民自治意識に目覚めた時、未来への道は見えた。

 しかし、合併後も、松代商工会議所は存続し地域を常に考えてくれる職員が10人いた。そこから自分たちの住民自治組織を作り、活気を取り戻そうと公民館運動を行う。行政に頼るのではなく、自分たちでできることからまずやるというプラス発想に変えた時、未来への道は見えてきた。

 長野高速道のインターチェンジ誘致運動や風の景観重視の商店街づくり、教育委員会の「庭園都市松代」構想の推進、長野市伝統環境保存条例の補助対象となり、土塀や泉水路などが復元された。若手商業者によるまちおこし「信濃の國松代藩」、木町まちづくり協議会・景観協定の実施、「信州松代まるごと博物館構想」の策定と実践、商工会議所の「城下町松代街並み景観賞」の創設など継続した事業により、町全体が落ち着いた佇まいを醸し出した。

 九九年、自営業者のおかみさんらによる特産品づくりの女性グループ「ホイサッサ松代」や中心商店街の空き店舗を活用する女性グループ「輝きネットワークわっしょい」、宅老所「あったかいご」などの住民自治組織が誕生した。〇二年、個々バラバラの住民の力を地域の総体の力にしていくために、NPO夢空間「松代のまちと心を育てる会」が発足し、「お庭拝見」や「町家ウォッチング」の開催によって、歴史や景観への気づきから自治意識に目覚めた。

 長野市は松代中心市街地活性化協議会を発足させ、〇二年、街並み環境整備事業の導入、11月には、松代支所に観光課松代分室を設置し住民自治を支える。さらに市は、松代町が住民自治から町の活気を取り戻したことから学び、市全域でブロック単位に地域総合事務所と地域会議を行政区単位に地域活動組織(まちづくり協議会)を設置する。合併後の地域の活性化は地域の人々自身の取り組み如何にかかっていることを松代の歴史は示している。

NPO「文化資源活用協会」


 住民自治とは自分が自分らしくなっていく行為そのものである。さまざまな地域課題に挑戦する住民は、より確かな人生や地域の歴史を築き上げている。住民自治により地域経営をするためには、住民自治組織の存在が不可欠である。そして、この住民自治組織が行政の下請けではなく、自らが地域のあるべき姿を提案し、責任をもって共に実践することが大切である。厳しい時代を乗り切るには、住民自治組織による住民力に、全国規模のネットワークを構築し、多彩な情報収集・発信を行うことが必要である。

 こうした住民力と情報力の向上のために、NPO「文化資源活用協会」(山梨県須玉町)では、ビデオ作品・シリーズ「町の意志が感じられる町」を制作することになった。私もチーフプロデューサーとして参加し、「野沢温泉村」「長野市松代町」「広島県高宮町」「鳥取県智頭町」の制作を終え、今後、「北海道ニセコ町」「京都府美山町」等を予定している。文章では伝わらない住民自治の実際がわかる。住民自治組織による地域経営に挑戦したいと考えている方のために、NPO「文化資源活用協会」ではビデオを貸し出す予定である。

問い合せ:NPO「文化資源活用協会」
〒407-0322 山梨県北巨摩郡須玉町下津金2963
TEL:0551-20-7100 FAX:0551-20-7105 http://www.stm.ne.jp/~bunka/


月刊『地方自治職員研修』2004年1月号特集企画「2004年・自治体の生き残り策考えます」(発行 公職研)

0 件のコメント:

コメントを投稿