観光カリスマと地域づくり



1.観光とは新しい価値を創り出すこと


 観光には地域の活力を生み出すヒントがあります。私は、「観光とは地域から新しい価値を創り出すこと」と考えています。観光地は社会を映す鏡で、時代の欲望がそのまま映ります。したがって観光には地域の見張り役の役割があります。名所・旧跡の中には、観光地として造り過ぎ、金儲けに走り過ぎた結果、なんとも恥ずかしい風景も生まれ出ています。一方、個性を活かしたまちづくりをおこなってきた地域が、時代の共感を得て、新しい観光地として登場してきています。

 そのような中で今年、国が発表した『観光カリスマ百選』の意味を探ってみたいと思います。

2. 観光地における地域リーダーの存在


 すでにご存知の通り、魅力ある地域づくりに成功した町には、確かに「カリスマ」とも言える地域リーダーが存在しています。地域リーダーを中心にして、地域に新しい価値を創り出したとき、話題性のある観光地が誕生します。カリスマたる地域リーダーは、住民がまだ考えてもいない時代の変化の予兆を感じ取り、未来につなげる新しい概念を地域の人に知らせる人です。「未来につなげる概念」は、時代とともに変化しますが、例えば、『癒し』や『味わい空間』のように「生存の必需品」というような世界も創造してきました。

 観光を産業面から見れば、他産業が経済的な立地条件がよい場所を求めるのに対して、現在話題になっている観光地は立地条件が悪いところも多く、それゆえに地域リーダーの目の付け所や知恵、工夫によって、新しい価値を発見することによって、文化や経済を創造してきたのです。

3.話題となった「観光カリスマ」


 内閣府と国土交通省は、今年1月、第1回『観光カリスマ百選』を発表しました。これは、かつての「観光地百選」のような結果重視から、「時代が求める地域の姿」を生み出してきた「地域リーダー」に焦点を当てる、地域づくりのプロセス重視の観光政策への移行だと思います。ただネーミングが、カリスマ美容師やカリスマ店員、カリスマ主婦などを連想し、「流行に乗って、いやだなー」とも感じられます。しかし厳然と地域づくりには地域リーダーの存在は欠かせなかったのです。まちづくりや地域づくりと言う表現が陳腐化したため、「観光カリスマ」という表現が、世間に新鮮にアピールしたのだと思います。

 第1回「観光カリスマ」が発表されて、私の周りでも話題となりました。ネーミング自体にはインパクトがあり、地元住民や全国の地域づくりの仲間から、意見が電話やメールが数多く届きました。ネーミングや人選への意見もありましたが、おおむね地域振興での裏方、長年の貢献者であり、選定された地域リーダーの活動に対して賛辞が多くありました。

 例えば湯布院町では、30年間の地域づくりが認められたお祝い会に、一緒に活動してきた多くの住民やはじめて参加した農家の人なども集まり、大いに盛り上がり、これからも迷いなく地域づくりを進めていくことを確認したそうです。小布施町では、まちづくり会社「ア・ラ・小布施」には視察が増え、住民が手分けして案内や説明をしていました。(由布院溝口薫平さんお祝いの会の写真、小布施の市村良三さんの写真)

 平均年齢63歳、女性がいないなど、いくつかの意見も出ました。地域づくりは、他の分野と違ってチームプレーが必要で、時間が掛かります。しかし男性ばかりとは残念です。女性が活躍している地域は楽しく面白く、とにかく元気です。ともあれ今回の選考発表が話題を提供して、さまざまな意見が出ています。こうしたコミュニケーションが活発に起きてこそ、地域振興のヒントが発見されると思います。

4.「観光カリスマ」の選考をイベントに


 「観光カリスマ」の選考について考えてみたいと思います。全国の観光地の事情に詳しい委員が集って選んでいますが、選んだ基準はないといいます。国民には分かりづらい話で、選考された人や地域住民も戸惑っているところもあります。

 そこで提案です。観光を身近に考えてもらうためにも、インターネットなどを使って、大衆を魅了する「観光カリスマ」を推薦してもらい、その後、委員会でオープンな形で選考を進めたらどうでしょうか。大衆の参加意識が生まれ、選ばれた人も一層張り切ってくれると思うのです。それによりコミュニケーションが盛んになり、地域の元気が出て楽しいし、話題性も高まります。都市と農山村のコミュニケーションの場を作ることが大切な時代です。推薦理由の競い合いには、地域振興のヒントが隠されています。イベントは学習メディアであり、コミュニケーションの活性化につながるから面白いのです。

 表彰式も体験観光やイベントにつなげることができます。遊び心ですることでも、結果を見れば、自然に基準や秩序ができあがります。観光は大衆の楽しみのひとつです。楽しみを創り出すソフト、発想が大事であり、国はそのきっかけを作ったのです。

5.卓越した個人の個性を地域で活かす時代


 失われた10年と言われて時間が経ちますが、今回の観光カリスマの選考を、こうした状況から抜け出す戦略のひとつにしていくことも可能です。

 観光は「個性ある魅力的な地域」を目標とすべきです。ヨーロッパの町ばかり褒めないで、日本にもいい町を創り出したいと思います。「未来に何が残せるか、星霜風月に耐えうるものを創り出せるか」、本物は長時間をかけて評価されます。

 人は、めざすべき方向性や目標を持つと、実現できる方向で脳にプログラムができます。脳はできないと思うと、できない理由を見つけ出します。カリスマ地域リーダーの存在は、新しい概念を創り出し、これを実現できると信じさせ、住民の自発的なやる気が出ると、自己組織化が始まります。ここが肝心なのですが、地域リーダーが住民をコントロールするのではなく、より自由に、より創造的に、自発的に個性が発揮される仕組みを創り上げていくことが大切なのです。カリスマ地域リーダーがプロデューサーとなり、その強い個性を活かすチームワークが必要です。

 地域リーダーのほとんどが、小さな会社や小さな町の人で、地域に出向けば、会えない人たちではないのです。話を聞いてみると、それぞれが自分の歴史と地域の歴史を重ね合わせている幸せな人たちです。今回の「観光カリスマ」の中には、私の人生や地域づくりの師匠と言うべき人たちがいます。現地で地域経営を学ばせていただきました。地域を丸ごと愛し、文化の創造や地域経済を活性化させようとする情熱と行動は、訪ねて話を聞く人に感動を与え続けています。地域リーダーと会うことは、幸せで充実した経験となって体に残っています。

6.地域リーダーを育てるために


 地域の考え方や発想力、実行力次第で、魅力ある地域が創造されます。そして人びとの注視を得て、マスコミ等によって情報は全国にいきわたり、多数の観光客を集めるようになり、住民の経済と自信につながっています。

 地域リーダーの存在は、全国的に見て、地元や地域づくりの実践者を除いて、まだ一般には知られていないと思います。「観光カリスマ」が、大きく話題になり、一般の人たちにも裏方の存在に目が向くチャンスになったと思います。しかし、マスコミによる話題性は、すぐに忘れ去られ、風化することが多いのです。世界の町と比べてみても、日本の町が、日々魅力が薄れていく現状は否定できません。地域リーダーは、「地域コンセプトの番人」であると思います。手抜きをしないで、一貫した地域のコンセプトを追求できる深い人間性をもった人を育てることが重要です。「観光カリスマ」が、各地の地域リーダーの意識を高め、また、新しい地域リーダーを産むことにつながり、日本を地域から変えていくきっかけの一つになればいいと思います。

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