「異質文化交流の本質的な意味や意義を、新しい世界観の中で考える必要がある。」
1 現場から考える
(1)香川県直島町魅力の分析
㈱ベネッセによる、世界的な建築家安藤忠雄氏等やアーティストがデザインした「ベネッセハウス」や「地中美術館」、本村地区「家プロジェクト」など、世界から注目を浴びる「美術の島」となっている。島民の生活にも自信と張り合いが生まれ、高齢化は進んでいるものの寂れた感じはない。若い女性が埼玉から移住し、洒落たカフェを開くなど新たな魅力も生まれてきている。直島周辺の瀬戸内海地区は、魅力的な美術館が複数存在し、文化施設の集積のメリットも出てきて、日本が誇る芸術文化地帯となる可能性もある。ポイント
- 三宅親連元町長の「高い志」をもったまちづくりと異質文化導入の歴史、たとえば建築家石井和紘氏(弟子の若い建築家)による学校群など、20年間もの建築面における異質文化の導入が基礎となっている。
- まとまった自然を「文化リゾートエリア」として設定し、その理解者として、ベネッセの社長と出会い、企業と行政との協働から新しい文化空間が生まれた。
- ローカルにおいて、「高い志」をもち、世界的な建築家やアーティストの力を得て、本格的な文化の島づくりを行ったことが成功のポイントである。
- 本村地区の空き家を活用したまちなかプロジェクトや再生イベントは、全国のボランティアの協力も得て、町並み風景を整備し、生活文化を維持することにつながっている。
課題
- 全体として、ベネッセと建築家やアーティストとの交流はあるが、住民が異質文化との交流を行っているとはいえない。
- 「地中美術館」、本村地区「家プロジェクト」は観光施設ではなく、限られた人数でこそ楽しめるものだが、施設を経営していく上で多くの来訪者の確保が必要である。全国の観光地が俗化していく過程と同じ課題を内包している。
- 観光地化しない、採算割れしない地域経営手法はまだ実現していない。
- 地域住民に誇りを持たせてはいるが、広く住民に経済的な効果をもたらすには至っていない。
- 三菱マテリアルには多くの若い人が働いているが、直島には定住していないし交流はない。島の暮らしを日々支える若い人の新しい職場も欲しい。
(2)長野県小布施町
魅力の分析
![](http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tsuzuki/photo/c09-01u.jpg)
地方の経済の低迷や行政の財政難でも、住民主体の地域活性化だったため、小布施発の情報発信が多く元気のよい町となっている。セーラさんは外人という珍しさだけでなく、日本の文化の再評価から、現在の日本のまちづくりやものづくりに多くの影響を与えている。
ポイント
- 30年以上にも及ぶ、官民協働による、本格的な修景事業や文化事業など、息の長いまちづくりの実践が基礎にある。
- 小布施堂の市村次夫氏らによる旦那マインドによる地域文化の醸成が伝統となっている。
- セーラさんによる、日本文化の基層に基づく、本格的な酒造りや建築物や修景事業、サロン文化「小布施ッション」などが、これまでの日本のまちづくり批評となり、影響力のある情報発信となっている。
課題
- 北斎館エリアだけに急増する観光客を目当てに、周辺に観光土産品店が増えて落ち着いた佇まいも失われつつある。
- セーラさんが、本格的な日本文化を基礎にして、アメリカン人建築家のジョン・モーフォード氏の力を借りて、次々打ち出す新規事業は評判にはなっているが、変化のスピードが激しく、内部分裂や住民等にも不安感が見られる。
- マスコミはアメリカ人(外人)がまちづくりをするといった視点で取り上げることが多く、セーラさんが目指す本質的な日本文化の再考による新たな地域文化創造といった視点が見失われてしまうことがある。
(3)北海道ニセコ周辺
魅力の分析
![](http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tsuzuki/photo/c09-02.jpg)
ポイント
- 10年ほど前に、ニセコのもつ優れた自然のポテンシャルを、新住民の工藤達人氏やオーストラリア人のロス・フィンドレー氏がさまざまなアウトドアー活動を開発し、可能性を引き出した。カヌーやラフティングなど、新たなアウトドアースポーツはニセコに定着し、観光客数は夏冬逆転した。
- 日本人のみならずオーストラリア人がアウトドアーの指導者や経営者として参入することで、5年くらいの間に、スポーツビジネスが急速に発展している。
- スポーツビジネスに携わるオーストラリア人たちが、口コミなどでニセコの魅力を伝え、多くの人たちがスキーに訪れるようになり、受け入れ施設としてコンドミニアムの整備がされ、不動産事業も成立するようになった。
- ひらふ地区は、スキー場の低迷と景観の乱れから地域の衰退が激しく、多くの不動産が売りに出て、オーストラリア人の事業は進めやすい状態にあった。
- 東急リゾートは新たな投資意欲がなく、負担となっていた大規模開発用地の「花園地区」を手放したいと考えていたところにオーストラリア資本が参入した。
- ニセコ町を中心として、農業と観光の融合や食施設も整備されつつあり、魅力ある地域へと変貌しつつあることもプラス要因となった。
課題
- 急速なアウトドアースポーツビジネスの進展に、指導者の育成が追いついていけないことや、自然利用のルールがないことから、指導者の質の低下やトラブルが増加する可能性はある。
- 冬中心のニセコの一部リゾート地区の衰退に対して、地元自治体は自らの整備イメージを持っていない。
- とくに、ひらふや花園地区がある倶知安町は土地の利用計画がないこともあり、一時的には活性化しても、新たな乱開発が発生する可能性はある。
- 急速なオーストラリアからの人と資本の導入は、結果についていくことだけの対応しかできず、戦略的に地域振興につなげていく制度や体制は地元にはない。
- 観光立国を目指していても、総合的なプロデュースを行う力は地元にも北海道庁にも、今のところない状態である。
(4)長野県美麻村
魅力の分析
![](http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tsuzuki/photo/c09-03.jpg)
ポイント
- 山村留学の子どもは、片道4キロ以上の通学路を歩き、地元の子どももスクールバスを使うものの一駅手前で降りて歩くなど健全な教育環境がある。
- 村中を歩くことは地域を実感し、発見する機会であり、山村らしい暮らしの実現につながっている。
- 山村留学の子どもを半年預かることは、農家の誇りや楽しみとなっている。
- 山村留学は、現代の日本の異質文化として、都会における贅沢で利便性、経済性の追求だけではない社会の良さを実感できる仕組みとなっている。
- メンドシーノとの国際交流は、Iターン者の活動がなければ実現できず、行政などの親善交流を超えた、子どもを通しての生活色のある交流となっている。
- メンドシーノの組織は住民中心の活動で、住民同士の交流となっている点が面白い。
- 国際交流はメンドシーノだけでなくネパールなどにも及び、住民のコミュニケーションやボランティア活動は活性化している。
- 外からわが村を見ることにより、地域の良さを再確認するなど郷土への誇りと愛着が醸成されている。
- 交流事業を通し、地域の文化、歴史を見直す機会となっている。
課題
- 美麻村は、平成18年1月に、大町市と合併することにより、メンドシーノとの親善交流は継続できるが、全市的な対応となる予定である。これまでの自主的で個性的な国際交流が継承できるかは現時点では分からない。
- 子どもが中心という地味な交流であり、地域振興にすぐつながる即効性のある交流ではない。
- 国際交流は山村留学同様に、直接、産業や経済に影響するものではなく、長い時間がかかって地域の歴史や文化に影響を与えるものである。
- 異文化交流の評価は内部的には非常にむずかしいので、外部評価が必要であること。
- 合併後も、継続した意志を持つ続けることができるかは大きな課題である。
- 合併による合理性の追求で、1村1学校区の小さい村(行政単位)がなくなると、個性的な事業や地域性が失われる可能性が高く、県や国の支援・救済が必要である。
「異質文化との交流による地域活性化方策」へのヒント
前提
- 本来「文化とはローカル」なもので、日々の営みから創造される。
- ローカルの中で極まったものだけが、より広い世界の文脈の中で「価値」を得る。
- 異質文化とそっくり同じものを作ることは単なる亜流で終わる、自らの内側に地域の将来イメージを創造できてこそ、はじめて地域の個性になる。
- 直島や美麻村を見ると、地域の立地条件を問わず、「高い志」のあるところに魅力ある地域が生まれる。
- 小さな地域でも自らのビジョンを持っていないと、急激な異質文化や資本の導入が可能なグローバルな時代では、短期的に外部の力で活性化はしても、継続的な地域振興にはつながらない。
- 国土計画や地域計画は、経済活動を中心として地域をデザインしてきたが、インターネットや高速大量移動が可能となった時代に、どの様に地域やライフスタイルをデザインしていくかが課題となっている。
- 情報はいくらでも集められるインターネット時代にあって、情報の「品質」を見抜くには、豊かなコモンセンスや生活者と共鳴するコモンセンスが必要で、情報の幹と枝葉の区別が見分けられる洞察力をつける必要がある。
- 情報の大局を見る目を養うには、地域や世界の歴史を学ぶことが重要である。
- 異質文化との交流が生み出してきたものは、文化、経済、思考方法、そして地域で守るべきものの発見である。
- 経済や効率を重視する「合理性」や都市計画上の「純粋性」の追求だけではだめで、地域に欠けてきた「複雑さ」を生み出すのに、異質文化の交流は有効である。
- 交流なき地域は自家受粉を続けていくしかないので単調となり、新たな結実は生まれてこない傾向にある。
- 地域の「生産系」に、異質文化の「才能系」の花粉が受粉すれば、「独創的な結実」が生まれる可能性は高く、地域振興に効力を発する。
- 定住人口に、「2地域居住住民」、「情報交流住民」も含めて考える時代で、異質文化交流はこうした「定住から自由に移動する時代」には重要な意味を持つ。
- 地域創造に対する「評価」が必要であり、現代文明への批評、文化性、経済性、持続性、感銘度、イメージなどを明らかにするためには、異質文化との交流は重要である。
■地域活性化方策のヒント
- 世界に通用する芸術・文化の導入するために、異質文化交流をコーディネーターできる機関を設置する。
- 日本を研究している国内外の研究者などのアイデアを活かし、地域や国土デザインを創造する場を作る。
- 異質文化の急激な参入への自治体対応策として、基本的な制度の整備などを応援できる、人的あるいは情報などの支援体制を構築する。
- 地域振興の評価システムとして、「知的所有権(知的市民権)」の仕組みを作り、独創的な地域づくりを保障する。(「経済特区」のような仕組み)
- 地域文化や独創的な地域振興を、今後どのように位置づけていくかと考えると、地域固有の文化を形成していくことを「文化的市民権」と考え、ひとつの知的財産と捉え、しっかりと国も保障していく。
- 「価値」と「経済」とが結びつく日本を実現するために、土地に資産価値があって、古い建物に資産価値がないシステムを変え、民家の評価を正しくし、地域の資産価値を上げることができる仕組みを作る。(実際、小布施堂社長の自宅など、古くて地域の資産としては価値があるが不動産としての資産価値はない現状)
- 文化は地域の産業から生まれ、また、文化が地域の産業を育てる関係にあり、文化や産業を含めた、生活に密接に関係する異質文化の交流をプロデュースできる人材を育成する。
- 地域には「生産系」がいるが、建築家やデザイナー、プロデューサーなど「才能系」はいるとは限らないので、異質文化との交流事業を通じて、さまざまな受粉を行い、地域に「新しいダイナミズム」が生み出す仕組みや助成制度を創設する。(地域は才能ある花粉の受粉を継続すれば、もうひとつの面白い国へ脱皮できる可能性は高い。)
- 異質文化の導入を恐れない風土づくりとして、地域住民主体で「社会関係資本」を築く住民自治の仕組みをより強固にしていく制度設計をさらに進める。
- 異質文化との交流は、本来の日本や地域独特のよさ、文化や資源の重要性に気づかせてくれる面があるので、異文化視点のネットワークをインターネット上で構築し、デジタル交流を盛んに行える仕組みを作る。
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