海・川を始点とした地域づくり


平成17年度「市民参加による沿岸域管理手法に関する調査研究」海洋政策研究財団


(1)高知県大方町「砂浜美術館」

魅力の分析

 たった4キロの砂浜が、「Tシャツアート展」を開催することで有名になった。何も人工物を造らないただの海辺が、「砂浜美術館」と名前をつけることで、イマジネーションの世界が広がり、ユーモアのある楽しさとなり、それが全国に伝わった。いきさつは、バブル真っ盛りの1989年に、高知県のデザイナーの梅原真さんから、「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」をコンセプトに、「砂浜美術館」のアイデアが提案されたことによる。Tシャツアート展、漂流物展、ラッキョウの花見、はだしマラソン、潮風のキルト展など、砂浜にあるものを楽しむことで、独創性のある地域の個性が生まれている。



ポイント


  • 砂浜にハードな施設を造らないで、環境そのものを活かす発想の豊かさに多くの共感を得た。
  • 「砂浜美術館」というネーミングが心地よく響き、楽園をイメージさせたこと。
  • 砂浜美術館の館長がニタリクジラ、バックグランドミュージックは波の音、2000枚ものTシャツが砂浜に、ひらひらしている光景は想像するだけで気持ちが良い。
  • 梅原真さんのデザインした、簡素だが品格のあるポスターやチラシが、優れたコミュニケーションデザインとなり、何もない砂浜が、想像ギャラリー空間となっている。
  • Tシャツアート展などのポストカードや漂流物の板葉書などが、美術館グッズとして人気がある。
  • 鯨に逢える町として、ホエールウォッチング産業も生まれている。
  • 悠遊移住計画によって、Iターン者の受け入れを行うなど、人口増加策にも「砂浜美術館」のイメージが役立っている。




課題


  • 4キロの砂浜は手つかずだが、周辺のラッキョウ畑をつぶして宿泊施設ができたり、松林を伐採して道の駅等が造られてきている。
  • 砂浜美術館の周辺は県の自然公園で、集客装置としてのさまざまな施設が整備され、どこにでもある公園になりかねない。
  • 砂浜美術館や県立公園などエリア全体の管理を行うために、NPO法人「砂浜美術館」が誕生したが、財源を確保するために努力をしているが、最初のコンセプトが継続できるかが課題である。



(2)高知県大月町柏島「黒潮実感センター」


魅力の分析

 高知県の辺境、人口530人の柏島が注目を浴びるようになったのは、魚類生態学者の神田優さんが島に住み着き、柏島が日本でも有数の、豊かな美しい海であることを、海の生態調査の結果とともに情報発信し続け、ダイビングの面白さを伝えたことによる。なかでも、神田さんが子どもたちと一緒になり、間伐材を活用した、ダイバーが海に固定する柴づけによる魚類の繁殖は、地域資源を豊かにし、アオリイカ漁業を盛んにした。こうした一連の活動を行うためにNPO法人「黒潮実感センター」を設立し、柏島を「島丸ごと博物館」として捉え、「持続可能な里海づくり」を行っている。こうした資源を再創造する科学的な取組みの地域づくりは日本では珍しい。

過疎化のまちを活性化する「時間人口」の提言

津金地域のように、ひとり暮らしのお年寄り世帯が増えたり、空き家が放置された農山村は多い。統計では、国内で約三〇〇万戸の空き家が存在するという。これを都市に住む人に利用してもらえれば、地域の活性化につながるのではないかと、鈴木先生は考える。数年後には、団塊の世代が大量に定年退職期を迎え、時間とお金に余裕のある層が一気に増える。そうしたときに、ストレスの多い都市生活を脱して、豊かな時間を過ごすための場所として、田舎がクローズアップされていく。
ふだん都市で暮らす人が、週末気に入った地域で過ごすという生活形態の場合、限定的にその人口を地域に含めるような考え方はできないものか。住民票がなくても、地域の成員のひとりとしてカウントし、まちづくりに参加できたり、応分の税の負担もできるようにする。こんな時間を区切って複数の場所の自治に関われるという「時間人口」という考え方が、地域の住民自治につながらないかと、鈴木先生は提唱する。都会への一局集中が加速するこの国で、豊かな地域が生き残るためには、いろいろな人のいろいろな価値観を認め合い、多選択社会にしていくことが必須である。従来の住民だけの熱意や努力だけでは限界があり、多様な人を巻き込む活性化は、「時間人口」がキーワードになるはずだと話す。そのため、体験や交流は一層重要になってくるのだ。
さらに考えるのは、「交流なくして活力なし」ということ。どんな人でも、同じ所にだけ留まっていては、なかなか広がりがもてない。これからの社会のあり方として、いろいろな異なる文化に出会える機会をたくさんつくり、多様な価値観を認め合いながら、人が生きる力を養うことが必要なのだ。

ポイント



  • 日本一の魚種、約1000種類、新種・日本発記録種が約100種も存在することが、神田さんの調査によって確認され、豊かな海の情報発信となっている。
  • 子どもを核として、林業者や漁業者、ダイバー業者、そして生活者、お年寄りまで巻き込み、山と海を結び、持続可能な地域づくりを実践している。
  • 海の自然を保護するだけでなく、島の暮らしを営みと生活者の視点で捉えていている点でバランスが良い活動となっている。
  • 人も海を耕し守る「里海」という概念を作り、住民にわかりやすく伝えたことの意義は大きい。
  • 「柏島学」「柏島大学」など、地元の高知大学とパートナーシップのなかで、地元学として構築をしていること。
  • 活動自体が地域の知の再生となっていることで、地元の子どもたちが海に目を向け、自然に興味を深く持ち始め、後継者が育ちつつある。




課題


  • 魅力あるNPO法人でも、財源を見つけるのに大変なことや地理的に不利なために人材不足が見られる。
  • こうした島には島国根性という排他的な面があり、神田優さんがよそ者であることから、妬みから排除するような動きも出ている。
  • トンネルが開通したことにより、島へのアクセスが、急速に良くなったことで、観光地化、俗化していくことが懸念される。
  • 神田優さんのモチベーションは、海を守ることであるが、住民の大方や行政は、柏島の一時的な観光の活性化に興味が向いている。
  • 柏島の海の汚染は進んでおり、海岸にはゴミが多いのは、海外も含めての広域の汚染、地元住民の環境を汚しても平気な生活が背景に存在する。



(3)高知県四万十市・四万十町「(株)四万十ドラマ」


魅力の分析

 四万十川は、NHKの番組によって、「日本最後の清流」として全国に知られた。このイメージが先行しているが、実態は、住民の営みによって水は汚れているし、砂防堰堤やコンクリートによる護岸工事も行われている。しかし、美しい四万十川のイメージは地域をブランドであり、しっかりと定着している。四万十川中流域では過疎化が進み、近代化の波も受けてはいるが、四万十川とともに生きる川漁師なども存在して、なつかしい牧歌的な風景が残っている。四万十川を清流のままに、近代化の波から魅力を残し、生産される農林産物を活用し、生き残るために設立された株式会社「四万十ドラマ」。この会社は、住民の善意と努力や全国規模のファンのネットワークのなかで、地域振興に奮闘している。

ポイント


  • 四万十川の中流域は、今も変わらぬのどかな美しい風景を保っていることが一番の魅力。
  • 四万十川に迷惑をかけない生産者が四万十ドラマに集まっているなど、人材がIターンで住みついている。
  • 四万十ドラマが、第3セクターとして創設され、2005年には、じゅうみん株式会社として民営化したことで、経済と精神面での自立が生まれてきている。
  • 特産品開発には、地元のデザイナー迫田司さんや梅原真さんなど魅力的な人物がいて、四万十川のブランド力を高めている。
  • 四万十ドラマを支援する全国的な組織化に成功していることと、それをまとめ上げる営業力のある畦地履正さんがいることは大きい。
  • 四万十ドラマの情報誌「RIVER」が、地域の活動を全国に楽しく伝えている。




課題


  • 四万十川の近代化は進み、風景が本来の姿から変わっていく可能性がある。
  • 水質や川の環境悪化のために、年々、鮎やうなぎなど天然資源が減少してきている。
  • 市町村合併によって、四万十ドラマの行政エリアの広域化が進み、意思が伝わりづらくなった。
  • 四万十ドラマの専従の職員数は少なく、新しい事業展開も同じメンバーでしなくてはいけない。
  • 高齢化が進み、地道なものづくりに関われる人が年々減少している。
  • 全国的組織「RIVER」を上手に活用できていない。



(4)高知県奈半利町「天然資源活用委員会」


魅力の分析

 2003年に、「ごめんなはり線」が誕生するまで、高知県東部の開発は遅れた。それだけに歴史的建物や自然がよく保存されている。伝統的な建物の保存活動や海岸近くに設置されたテトラブロックに繁殖したサンゴ群を観察する住民グループなど、自立した住民活動が継続して行われてきている。さらに、この住民活動はネットワーク化されていて、拠点となる施設もあり、連携して行われていることは特質に値する。テトラポットに付着しているサンゴ群は美しく、年々増加していることには驚いた。

ポイント


  • ボランタリーな住民が複数いて、住民活動の拠点施設を持っていて活発である。
  • 歴史的な建造物の資源と海の豊かな資源とで、地域の複合的な魅力づくりを目指している。
  • サンゴ群は、海岸からすぐ近くのテトラブロックに付着して美しい海を感じさせる。
  • 普通の住民が純粋に研究的人生を送っている。
  • 海に向かって展望の良いごめんなはり線ができて、今後の誘客が見込めること。
  • 優れたデザインのパンフレットを作成する力があり、情報発信力もある。




課題


  • 住民活動に限界があり、観光としてサンゴが観察できる船の運営がうまくいってはいない。
  • サンゴ群は外海にあり、少し波が高いと船が出せないので運行回数は少ない。
  • 船からだけでなく、海岸から歩いて観察できる方法を工夫する必要がある。
  • 住民組織の経営力がなく、ボランティア活動だけにとどまっているので、持続性が心配される。
  • サンゴ群のある海岸の整備が景観を壊しているので、今後の整備方法はデザイン面に配慮する必要がある。
  • サンゴ群の科学的な研究がされていないので、ただの観光事業から環境破壊となる可能性もある。



(5)高知県赤岡町


魅力の分析

海に近く漁師町で、海岸で開催される、一升酒を一気にあおる「どろめ祭り」で有名である。このイベントに併せて、地引網も行っていて人気がある。赤岡町は住民活動の盛んな地域であり、江戸時代の町絵師「金蔵」の屏風絵23枚を、街路に立ててみる「絵金祭り」でよく知られた町である。住民自らが演ずる「絵金歌舞伎」もあり、2005年には、ミニ美術館「絵金蔵」も完成して、ユニークなまちづくりと、全国から多くの人が訪れるようになってきた。

ポイント


  • 「どろめ祭り」など、漁師町特有の豪快さとユーモアがある町である。
  • 住民に個性的な魅力を持った人が多く、しかも役場に住民を上手に乗せる職員がいる。
  • 「絵金祭り」は、江戸時代からの屏風絵を道路に出し、ろうそくの炎で見る珍しい祭りである。
  • ミニ美術館「絵金蔵」は、壁穴から覗く不思議な体験ができるユニークな展示方法など、独創性があり面白い。
  • 「冬の夏祭り」は、住民自身が企画し、住民が運営するユニークな祭りである。
  • 住民活動によるユニークなまちづくりで、全国のファンをひきつけている。
  • 空き店舗を使って、若い人や住民の新しいユニークな店も生まれてきている。




課題


  • 海をあまり見ていないが、「ごめんなはり線」の赤岡駅は海岸に隣接していて、海を活かすまちづくりも可能である。
  • 年々寂れていく、古めかしい商店街をどうして行くかは大きな課題である。
  • 日本一小さな町だったが、合併によってその個性が失われていく可能性もある。
  • ユニークで個性的な住民が多いだけに、相互の連携をとることが難しい面もある。
  • 食事や宿屋がないので、ゆっくり滞在する場所を作る必要がある。

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