「過疎地を舞台に元気にいきる」


1.自分を楽しむ地域経営


 小さな農山村が、自分たちの考えを持って、まちや日常生活を楽しみ、その上で都市住民との交流の中から“信頼”を生み出し、それを経済の活性化にまでつなげる仕組みを作ることが大事である。それが私のテーマである。

 中央から離れたところに暮らす人の方が世の中の本質が見えることがある。農山村を歩くと、自分の考え方をしっかりと持って、自律・自発的な新しい労働スタイルやライフスタイルを編み出し、実践している人に会い驚く。こうした根源的な力を持った地域と魅力的な人の話をしてみたい。

2. 四万十川に迷惑をかけたくない人たち


 「四万十ドラマ」は、高知県四万十川をテーマに、「本当の豊かさとは何か」、「何を守るべきか」を考えようと、中流域の西土佐村・十和村・大正町が共同出資して、平成6年に、資本金2400万円で設立された株式会社(第3セクター)である。役員は3町村長、従業員は正社員が2名、臨時社員が1名。

 これまでの活動は、都会の人も田舎の人も、四万十川を中心に「豊かさ」をそれぞれの立場で考えようと、全国規模の会員制ネットワーク制度「RIVER」(四万十川ファンクラブ)の形成。流域で得た技術や知恵を習い教える「薪を割って五右衛門風呂に入る学校」、「川エビを獲る学校」「森の木を知る学校」「川船を操る学校」「自分の机をつくる学校」「箱めがねの学校」「投げ網で鮎を獲る学校」など多彩な「自然の学校」の開催。さらに、筑紫哲也、糸井重里、赤瀬川原平等著名人18人に、原稿料を四万十川の鮎3年分で執筆を依頼し、『答えは水の中』という本を刊行した。

 四万十ドラマの目標は、子どもたちと、そのまた子どもたちに、豊かな自然を語り継ぎ、残していくことである。四万十の森に会員と植樹し、手入れをしていくシステム「四万十の自然を通じた交流事業」や、「四万十川方式」などの排水浄化システム、近自然工法の導入も検討し始めている。

 今年、四万十ドラマは新たな行動に出た。コンセプトは「最後に残った四万十川」から「新しい価値観(人の生き方)」を基本とした「地域産業」「全国ネットワーク」「グランドデザイン」の構築である。「自分の考えを持たない人や地域は魅力を生まない」と、四万十ドラマはソフト(知恵やセンス)を核に据えた会社づくりを目指す。「積極的な経営を行うために、行政とは一線を画し、民間人社長の採用、自発的な仕事の創出、そして地域生活、環境、文化などを総合的に考え実践していくセンターを目指していく」と事務局長の畦地履正さん。

 『四万十川らしい生産者連絡会』の文集第1号が発刊された。「わたしたちは、四万十川にできるだけ迷惑をかけないものつくりをしていきます」と宣言。生産者連絡会の目標は、「四万十川に迷惑をかけない」地域内環境循環型のものづくりによる経済的な基盤づくり。「良心市場・四万十川の天然素材」は、青さのり、天然鮎、天然うなぎ、天然川えび、天然ツガニ、無農薬・無化学肥料・栽培野菜、お茶、かおり米、自然薯、トリのたまご、小町味噌、原木栽培しいたけ・まいたけ、栗、まつたけ、山塩、四万十の彩り(木々の枝)などがある。これらを会員のネットワーク力を発揮して全国に販売する。図1)


 新しい商品の研究や開発も行っている。四万十川流域に育つヒノキの端材をそのまま使った入浴剤「四万十の天然ひのき風呂」は、1億円販売したヒット商品。冷蔵庫の木炭脱臭剤「炭っこ」、水車でついた「水車米」、羊羹「十和の秋・十和の冬」など素朴なデザインで四万十川ライフスタイルを表現している。これらを詰める紙袋には「四万十川・自然の日用品」と書かれている。これから包み紙はすべて古新聞を使おうという考え方も出ている。

 四万十川は世間で言われているほどきれいではない。川に迷惑をかけない農業と日々の暮らしからはじめようと考え行動した生産者連絡会。なかでも「四万十兄弟舎」は、流域に暮らす10グループ、約30名によって構成されている相互扶助集団。その四万十兄弟舎のリーダーである畑俊八さんは、「わたしは土と考える」を基本に据えた『人生農場』を4人の仲間と経営している。野菜のラベルは手づくりで、「子供も食べる。百姓も食べる。川も汚れる。だから農薬使わない。化学肥料使わない」「姿に自信無し・かほりきゅうり」、「味に自信無し・自家採取種使用・トマト」と書いてある。収穫したものは、農協や市場に出荷せず、すべて彼に惚れ込むネットワークで販売。「こうした農業のあり方では1人200万円稼ぐのがやっと」というが、評判がいい。



 農場を拡大したくても、農協との付き合いがないので資金調達ができない。「私に資金を都合してくれれば、配当は保証する。農業労働をしたい若い人にチャンスを作りたい。それが自分の使命だ」と自信を持って語る。こうした真摯な生き様は、20歳台から70歳台すべての生産者連絡会の人たちに共通している。

 「RIVER連絡会」全国支部会、関東、関西、中国、九州で相次いで設立総会が開かれた。会長は全員女性である。このネットワークを活用して戦略を立てているが、観光地化すれば、四万十川に迷惑をかけるから、交流は会員を中心とした軸足で行いたいという。外からの風を敏感に感じ取り吸収することも文化であるが、妥協しないことも文化となる。

3.「信頼が資産」-相互扶助を求めて交流する人たち


 「北海道B&B協会」の横市英夫さんは、北海道芦別市にある「(株)横市フロマージュ舎」の代表。チーズ作りを独学で学び、昭和54年、チーズ、アイスクリーム、シャーベットなどを自家農場で作り、本物と評判を得て、年商は1億円である。彼は「富良野塾」で有名な脚本家の倉本聰さんを支え、エッセイ集「北の人名録」には、ユニークな横顔が紹介されている。

 横市さんは「子ども達が生まれ、売るというよりは、家族が“おいしい”という乳製品を作りたいという気持ちからスタート。20年以上たった今も変らない」ときっぱりと話す。こうした乳製品は、家族から友人へ、知人へと口コミで伝わり、全国にエンドユーザーが6万人以上、全て個人注文による宅配システム。「チーズ作りは生活するためのひとつの道楽。 私や家族が幸せにエンジョイするための手段。農業は大変だ、苦しい、だから農業をどうするかではなく、現状のなかで自分自身がどうエンジョイできるかと考えることが大事。自分自身のライフスタイルのなかで、働く部分と楽しむ部分を調和させることだ」と。

 北海道B&B協会は平成12年に設立、平成13年、NPOに認定された。この協会は、北海道のハートに触れ本当の北海道の雰囲気を味わいたい人に、普段着の生活に触れ地域の人との出会いが楽しめる交流観光のシステムを発案した。

 1)倉本さんは、B&Bのシステムを「一宿一飯一趣」(自分たちの暮らしの紹介できる家庭)と名づけ、旅人に、居心地のいい生活、生活に息づいている気負いのないライフスタイル、ナチュラルでぬくもりのある生活を提供しようと始まった。



 北海道B&B協会は、夕食や入浴は提供しない新しい交流観光のシステム。宿泊施設ではなくから旅館業法は適応されないので、新たな設備投資や許認可は必要ない。地域の産業や暮らし、自然、歴史、文化などオンリーワン(特別なこだわり)を登録したホストと語り合う「訪問交流講座」が、「非日常」の観光とは違った「生活観光」として評判となっている。

 プライベートホームに、信頼と安心に基づいてゲストの方を受け入れるため、登録をしている人のみが参加できる。旅館やホテルとは異なり、食事の内容や部屋の調度に過度の期待はしないで、生活習慣の違いを理解し、ある人に評判の良かった所が他の人にも過ごしやすいとはかぎらないと自然体。ホストのライフスタイルで迎える日常性がポイント。訪問交流講座(地域の暮らしの楽しみ方などを伝える講座)は2000円、ホームステイ体験(B&Bスタイル-寝床と朝食のみ)は無料、オプショナル体験メニュー(農業体験、手工芸体験など)は有料となっている。利用者は、平成13年は1000人以上(前年の2倍上)が訪れ、口コミだけで浸透している。図2)



 横市さんが、次に目指すのは、「地球環境悪化から、『もしかしたら』の非常時を考えて、消費者自ら農村に資本参加する『都市生活の危機に備えた農村整備』。20世紀の農地解放は、地主から農民に農地所有移転させ農業を活性化させ、21世紀の農地解放は、農民の不良資産化した農地を消費者の資産で確保し、農村の活性化を図ることだ」と話す。

 「空いている部屋」「空いている農家」「空いている農地」を登録して、新たに作るのではなくあるものを「信頼」のキーワードに活用しようというシステム。この考え方は、倉本さんの「元金(自然、信頼など)に手を出すな、利子で食って行け」による。なぜ、交流が必要なのかと尋ねると、「自分が納得して作っているものを相手が認めてくれる信頼関係からうまれる相互扶助が必要だから」と話す。信頼を食い潰してきた時代の“信頼感への渇望”に応える労働スタイルやライフスタイルを築くことが彼のミッションである。

 都市の危機・農村の危機に対して相互扶助による「都市生活者リザーブ・ネット」(都市と農村連携型農業システム)契約を結ぶ。都市住民がB&Bに出資し、B&Bが農地を買い取り、自発する農家が生産を行う。農産物自由化の時代に、規模拡大と無理な農地資産を増やしても経営は安定しない。

 2)地域農家だけで農地を維持できる時代ではない。投資家と経営者が分担する時代。都市住民は、環境に配慮でき技術力を持った農業経営者と耕作契約し、農業生産法人を設立する。提携農業者の耕作権(営農権)に担保力を認め、投資者は、優先的に信頼安心できる農産物の恩恵を受けながら、耕作料収入の投資配当が見込む楽しみがある。

 3)「信頼から未来」を作り出す仕組みづくりに情熱を燃やす横市さんは、理想を語り、そして自己を拘束している行政や市場が作り上げてきた既存の価値観を正面から見つめ直す。自己の存在を都市との関係性のなかでとらえかえし、相互の信頼関係を築くために、自己の存在への透明感を増していく。

4.情報は資源-情報発信を楽しむ住民ディレクター


 マス・メディアは大都市を中心に制作され、大都市に受けることを前提としているので、小さな農山村の暮らしの情報発信をすることは不可能である。熊本県人吉球磨広域行政組合では、人材育成の一環として、地域発の情報を外部に依存することなく、楽しみながら発信しようと考え、住民ディレクターを養成した。住民手作りの生活情報番組を、(有)プリズムの岸本晃さんの協力を得て、全国ではじめて、地上波の民間放送番組を住民自身で制作しオンエアーした。そこの構成市町村である山江村では、住民ディレクター達が地域の暮らしを自らが考え、取材リポートし、ついには、原作、撮影、出演、編集までこなしてテレビドラマも作り上げ、ゴールデンタイムに放送した。

 岸本さんは、熊本県民テレビ報道制作局に勤務し、住民参画のドキュメンタリーや手作りドラマなど実験的映像作品を多数制作した後、平成8年、まちづくりを応援する企画・実践プロデューサーとして独立した。彼は映像制作のプロセスを体験することで、まちづくりの企画力を育てる「住民ディレクター講座」を発案し、住民のためのメディアの在り方を模索中している。

 猪撃ちの名人は 山や川がいかに荒れているか、焼酎を飲みながらとつとつと語る。ある時彼が、「自分の村のテレビ局が欲しい」といったので理由を聞いたら、人口3000人 の村でさえ、今はお互い何をしているのかわからなくなったと話す。地域の情報は外部に期待するのではなく、自らがディレクターとなって作り出す「職人」として腕を磨くことだと気づく。「住民ディレクターは何やっているかと言うと、番組作ることで、結果的に自分の考えていることがはっきりする。映像の編集は、1時間テープを200本近く取材してきて、わずか1時間にすることもある。この捨てるプロセスの中で、自分の思っていたことが、凝縮されて自分の表現がはっきりする。テレビ局の人間だけでやるのは、もったいないと考え、もっと開放して、テレビを作るプロセスで企画力や構成力をつける。あくまで住民ディレクターというのは、まちづくりをするディレクターという意味で、結果的に、テレビやケーブルに出たということで、地域の情報も出る」と語る。

 「ディレクターという発想でいくと、米を作っている百姓が20年も有機農業でやっている姿をおかあちゃんと息子に撮らせて、いかに有機農業の米作りが大変かということを1年撮っておく。これを自分で編集すれば作品になる」。これからは高速インターネット時代となり、誰でも自分が作った映像を世界に向けて情報発信できる時代がやってくる。

 山江村には「変革する人」という意味での「変人」が多い。アフリカ、アメリカ を放浪し村に戻って20年間無農薬農業を続ける松本佳久さん。朝4時から新聞配達、その後高速パーキングエリアのレストランで働き、誰にも見つからずに草取りや花の種蒔きをする主婦の本山民子さん。キャンプ場 の管理人横谷敏治さんは、山から水を引いたり、ヤマメを釣ったり、炭を焼いたりと何でもできる人。「住民ディレクターという発想はまさに村の人々とのつきあいの中で生まれ、熊本県内から全世界に伝播しつつある未来ウイルスのようなものである。『変人たち』は村を変革し、日本や世界の変革の芽となり、ついでにテレビや未来のメディアをも変革してしまうのではないだろうか」と、仕掛けた山江村職員の内山慶冶さんと岸本さんは個性的でパワーフルな『変人たち』に期待する。(山江村「住民ディレクター」の写真)

山江村「住民ディレクター」ワークショップ


 さらに発展して、住民ディレクター10数名でマロンテレビなる組織を立ち上げた。現在マロンテレビのメンバーは、山江村コーナーを作り、毎月10~15分の番組を制作している。村では「情報は資源」と位置づけ、「外部化した生活の技術や知恵、労働」を「内部化」して、地域個性や文化の資源とする仕掛けを作り上げてようとしている。地域をつなぐ新しい「人間ネットワーク」と「情報ネットワーク」の創出によって、農林水産業を生かした独自のベンチャー産業の育成、さらに、世界のモデルとなる「人間的な地域情報社会」の実現を目指している。

 平成12年度から、「特産栗で古里おこし」事業が始まった。住民主体で組織化された「村づくりグループ」は都市部との交流の拡大を図り、特産栗を使用した全国に向けた新商品の開発を行い、「住民ディレクター」の育成により情報発信を行っている。栗の新商品開発には、私のネットワークで紹介した全国的に有名な栗菓子を製造販売する「小布施堂」の市村良三副社長の協力を得て、経済・交流・情報の立体的な協働事業として進められている。住民ディレクターたちは、地域の生活資源を編集し、自分たちのメディアを使い魅力や経済力を強め、自発的に村の歴史を変えようとしている。

5.「内部化と外部ネットワーク」の要素と課題


 第1段階「その地域に生きている自分を見つめ直すことが、地域と自分の個性や魅力を高める」、

 第2段階「その個性や魅力を、智恵とセンスで表現して、外部とのブリッジを架ける。そこには「信頼」の関係が重要な役割を果たす」、

 第3段階「ブリッジによってつながった外部ネットワークと、さらなる魅力づくりを実現していく」

 この3つの段階は、また「自給・域内循環経済」、「相互扶助的経済」、「市場経済(GNP的経済)」ともなり、これらの経済が地域においてバランスよく重なりあって存在する。

 こうした過程の出発点となることは、これまで都市化の波に乗り、アウトソーシング(外部依存)してきた生活の知恵や技術と労働あるいは地域の開発というものを、再び「内部化」することから始まっている。それにより誇りと主体性が回復し、その上で正々堂々と「外部ネットワーク」も張れるようになるわけである。

 四万十ドラマを支えるデザイナーの梅原真さんは、「あるもんでやってけるやないか、面白がり方の問題じゃないか。頭のチャンネルを1チャンネルずらすと当たり前になってしまうので、半チャンネルかちっとやるだけで面白いことができる。物を見る目というのは、自分側にあって、マイナスのものと思われるようなものも見方によっては、とんでもない面白いものになる。それを見極めるのは、自分の体の中にある豊かさに左右されるもの。あれダメや、これダメやというのは、自分がダメなんやぁ」と話す。

 「外部化された生活」から「内部化する生活」へ。「非日常の観光交流」から「日常を楽しむ交流」へ。これは退屈だと思っていた日々の生活を「刺激的日常」へと向かわせる。閉鎖的といわれる地域にあって、「内部化」への編集は、個性を「資源化」する手法である。そこで、地域個性を「資源化」させる内部化の要素と、外部ネットワークの要素を抽出してみたい。


[内部化の要素]

  • 何でもこなす能力を持っていた農山村民の「内部化」の潜在力を再発見する。
  • 新たに作るのではなく、あるものを活かす(持続可能な状態)発想をする。
  • 日常的に自発的・自立的運営の組織体を自ら作る。
  • 自らが地場産品の企画力・商品開発力を持つ。
  • 自ら使える情報メディアを手に入れる。

[外部ネットワーク]

  • 都市部との共感による人間、財力(消費、投資、信託)のチャンネルを持つ。
  • 同じ境遇の地域間で水平的な評価・協力のネットワークを構築する。
  • 外部ネットワークを「内部化」させる包容力のある感性を身につける。。
  • 変幻自由な世界を自在に覗ける出会いのサロン文化を持つ。
  • 新しい生き様に感銘でき精神の浄化作用を伴なう交流文化を築く。

 また、こうした方向性での取り組みにおける課題は、ターゲットとなる都市住民や他地域への適切な情報伝達であると思う。せっかくの斬新な試みも、知って欲しい人、パートナーとなってほしい人々にインパクトをもって伝えなければ、チャンネルはできないからである。その意味で四万十ドラマの都市部での「RIVER連絡会」の立ち上げは直接乗り込む自前のメディアとして、その運営が期待される。

 ほとんどの地域活動の情報発信はホームページの立ち上げや通販あたりで力尽きる。インターネットの検索サイトの膨大な類似情報の波に飲み込まれる。画面上で伝わる臨場感にも限界がある。顔の見えないマス・マーケティングとは違う、もう一歩踏み込んだリアルな伝達手段が必要となる。それには都市と農山村を結ぶ信頼のおける媒介人、または機関が必要ではないかと考えている。率爾ながら私自身(周囲からは「歩くインターネット」と呼ばれている)、そのような役割を認識し、農山村を歩いては、都市部での大学生達や、気心が知れ、かつフットワークのいい知己や専門家に広め、縁をつなぐ事に努めている。IT時代のITの使いこなしと共に、そこで達成しきれない思いを伝える手段も用意されなければならないと思う。

■「生活自治」による日常の輝き

 今回採り上げた事例は自発する民意を重視したものである。強制された訳でも、義務感からでもない自発的動機による活動の先には「生活自治」という姿も透けて見えてくる。自分たちの中に内部化できるものを持ち、活動していくことで、既に始まりつつある市町村合併という「法定自治体」の大変容に翻弄されずに主体性を持って生き続ける可能性も発見できる。合併論は広域化によるマクロな効率化や財源確保という面では理解できても、きめ細かい住民サポートは期待できなくなり、それぞれの個性的な文化圏のアイデンティティを薄めていく可能性は高い。その意味でも日々の暮らしを極力自前のものとし、外部依存していたものを内側に取り込み、自己責任と引き替えに自発性による自己決定、選択権のある活動をしていくことが求められる。そうしたなかから生まれた「労働スタイルやライフスタイル」は、極端な分業化社会に生きる大都市住民にはとても魅力的に映り、強い動機を持った相互交流が起こると信じている。

 長野県小布施町の田園プロデューサーの木下豊さんはこう語る。「住民自身が魅力的なソフト、感性、知識を蓄えていくことが必要だ。住んでいて面白い町をつくり(give)、暮らしぶりに魅力を感じて訪れた人に話題や情報を提供する(give)、それから来訪者から刺激が得られる(take)。それを小布施では、「give give & take」のもてなしという。と同時に思い上がって己を磨くことを放棄した瞬間に、ソフトは成育を停止し、町はあっけなく衰退していく」。これこそが地域文化の情報発信の心得である。

 今、小布施に人びとは集う。毎月刺戟のある面白い話を聞き、おいしい料理と酒を楽しむ「小布施ッション」というサロン文化を、私は市村次夫社長とセーラ・マリ・カミングスさんと始めている。本当に気持ち良く生きる場、人生を真剣に考える場が日常生活の中にあるかどうか。こうしたライフスタイルが「美日常」的4)に存在していることが、「生活自治」の基本であると思う。

 都市部であろうと農山村部であろうと、住民が渇望するのは、魅力的な生身の人間との出会いや語らいである。「内部化」とは端的には、「生き方と仕事、経済が合一した労働スタイルやライフスタイル」に向かうことである。その姿との出会いには精神の浄化の作用があり、市場経済では対応できなかった領域にまで共有・共感の世界を実現させる。出会いは感性を磨き、知識の厚みを増し、自らの自己編集と自他の関係を編集する新しいソフトを開拓していく。

 最期に、「百聞は一見に如かず」である。ぜひ、ライブの地域や人物の面白さをもっと味わって頂きたい。過疎地の再検討というテーマも対岸の客観的問題ではなく、都市部の人々にとって自分自身の幸福感の問題でもあるという認識が大切なのである。


1) B&Bとは、ベッドと朝食のみを提供するプライベートホームを活用した民宿で、英国、カナダ・アメリカ・ニュージーランド、そしてオーストラリアなどで広く普及している宿泊形態のひとつである。

2) 富良野市では、2001年に100戸以上の農家が経営破たんに陥っているという。理由は、農産物の価格の下落と農協の合併により、貸付限度額が3,500万円から3,000万円に下げられたために、大型化を図ってきた農家経営が厳しい状態に置かれたことによる。

3) 農業法人は、B&B会員の農業者が2/3以上と1/3のB&B会員・消費者で設立できる。現行法では、消費者が直接農地を取得できないので、B&Bが農業法人をつくり消費者が出資して株主になる。新農業生産法人「B&B アグリ・トラスト(仮称)」は、農村地域を都市社会のセフティー・タウンとして機能するシステムづくりを目指す。農業維持事業として農地取得・委託耕作営業権・新規就農受け入れ、都市住民の農村移住対策として、空き農家無償譲渡と、B&B交流事業と近隣農家でのヘルパー収入で安定した暮らしの保障を行う。1口5万円の5年物の債券を都市住民の賛同者に発行する予定。

4) 「美日常」とは、地元だけの「日常」と観光地のような「非日常」の間にあり、遠方の観光客ではなく「広域の地元」を大切にしたサロン文化を持てるような「いい風は吹く町」のイメージである。

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