住民と行政の協働 平成の市町村合併における住民自治組織

 平成の市町村合併にともない、さまざまな住民自治組織の試みが進められている。2005年に新潟県柏崎市に編入合併予定の高柳町が取り組む、住民と行政の協働による住民自治組織育成の実態を紹介する。

■地域コミュニティ崩壊の懸念


 地域の暮らしと国益が、同時並行に豊かになれる時代は終焉した。 日本の地図を描き換える「平成の市町村合併」だが、都市住民と中山間地域住民の間では、認識のズレは大きい。東京をはじめ大都市住民にとって、合併は話題にならない。中山間地域などの小さな自治体に暮らす住民にとっては、これからの生活に密接に関わることだけに切実な問題である。しかし、自治に関心を持っている住民が少ない。それは、日本の地域コミュニティが崩壊しているからであろうか。
これを裏づけるように、内閣府経済社会研究所が、2004年9~11月に、人口20万人未満の市町村(2996)を対象として実施した「生活者の視点による地域活力・活性化に関するアンケート調査」(1249の自治体が回答、回収率41.7%)では、地域コミュニティの崩壊に関して、「やや心配」(57.2%)、「かなり深刻」(3.6%)と懸念を示す回答が6割を占めている。
今回の「平成の市町村合併」は自治区域の変更である。ところが財政問題に端を発する国や都道府県の誘導型であるために、自治体首長や行政のみの判断で「厳しい財政を考えれば合併は避けられない」などと結論づけ、住民への説明責任を果たさない地域も多い。そのため「市町村役場合併」にさえ見える。自治体の予算や政策の合意形成システムについて、住民に情報公開し、情報共有している市町村はまだ少ない。これでは、合併の狙い、地方分権の受け皿作りを住民と一緒に築き上げていくことはできない。
一方、住民とともに行政の財政危機に取り組んでいる地域では、合併の時代を機に住民自治を強固なものにしている地域も出てきている。私は自由な発想で、優れた地域づくりを行っている、住民自治組織を調査してきた。合併してもしなくても、行政の政策独占の時代が終焉し、住民のやる気や創造力で、地域の行く末が決まる時代だと思う。全国各地で多様な自治組織が生まれていることを実感している。この論文では新潟県高柳町を取り上げて、住民との協働、住民自治組織育成の実態を述べていきたい。


■「平成の市町村合併」の現実


 2005年3月に期限切れとなる、「市町村の合併の特例に関する法律」では、地域自治組織についても法制化された。しかし、自発性を尊重する、住民自治組織の具体的な取り組みをしている自治体は少ない。まず合併ありきである。合併すれば、合併特別交付金や財政的な支援措置を期待できるので、住民自治への変革は後回しになっているのが現状である。
これまでの地方自治体の政策は、国からの潤沢な予算によって支えられてきた。しかし、国は交付金の総額を年々削減してきたために、財源不足に陥る自治体も出てきている。人口の少ない小さな自治体の合併、とくに編入合併では、母都市の理解を得られなければ、これまでと同様の住民サービスや個性あるまちづくりはいずれ不可能となる。いずれ補助金の削減、地方交付税の見直し、税財源移譲をセットする三位一体の改革により、自治体の政策創造と地域経営が課題となる時代が訪れる。
また、住民の合併への不安は大きい。合併によって低下する機能をまとめると、「きめ細かな行政サービス」「地域意向の把握」「独自の施策の継承」「住民意識の低下」「地域のことを考える企画力」などである。 住民自治組織については、すぐには効果が出てこないことに加え、事例も少なく情報やノウハウが蓄積されていない。さらに、行政がこれまでと同じようにプランを作成し力を入れれば入れるほど、住民自治の精神から遠ざかり、行政頼りになってしまうという、自己矛盾も生まれる。

■新潟県高柳町での地域自治組織への取組


「じょんのび高柳」とは 高柳町は、2005年5月1日に、西山町(人口7,000人)ともに、柏崎市(人口8万6,000人)に編入合併の予定である。高柳町は人口2300人、高齢化率44.9%の典型的な中山間地域である。20年ほど前までは新潟県で1番の過疎地域であった。「じょんのび」をまちづくりのコンセプトに定めて17年。「じょんのび」とは、ゆったりのびのび、のんびりして芯から気持ちいいというお国言葉で、体の奥底から自然に沸き起こってくる充実感を表現している。現在では、「じょんのび」の精神が住民自治を育てる地域の哲学となっている。荻ノ島地区の珍しい茅葺の環状集落や栃ヶ原地区の棚田の風景、稲藁を使った生活道具や日本こうぞを15%も使用する門出地区の手漉き和紙など、伝統的な手仕事もあり、懐かしい日本の故郷が残っている地域である。

■住民自治意識の芽生え


 高柳町で住民意識の変革は、1988年、東京のデパートで開催された「101村展」に、住民と行政が一体となって、町のPRや物産販売に取り組んだことから始まる。町ではそのときのメンバーを中心として、「高柳町ふるさと開発協議会」を創設し、2年間に述べ200回を超える検討会、懇談会、先進地視察などを重ねた。その結果、「じょんのび構想」は生まれた。
豪雪、過疎の地で、行政のみががんばったところで地域づくりは無理。住民の底力を出さないとだめだと気がついた。また、行政は「金は出しても、口は出さない」と、住民自治を意識した「ものごとの進め方」が基本となった。その後、住民が集落ごとに地域振興策を作る「じょんのびの里地区振興プロジェクト」や、地域での協働をめざす「中山間地域等直接支払い事業」の実践などにより、住民自治の活動は積み重ねられた。住民の自発性を活かす上手な行政支援は、時間と手間はかかるが、自立と山村に生きる誇りを育てつつある。

■住民自治からの地域経営へ


 高柳町では、2002年、新たな地域自治組織の仕組み、「高柳型自治組織」をめざす。町が合併を住民とともに決定したのは、02年8月の住民集会。600人の住民が集まって、今後の町のあり方に忌憚のない意見を出し論じ合った。
行政の力に頼る習慣から抜け出すため、住民が地域自治を考える勉強会や、協働のための環境づくり、NPOやボランティアなどの活動をしやすくする拠点作りを支援し「住民自治のモデル」となる取り組みへ活動は続く。
さらに、柏崎市と一緒に、地方制度調査会の西尾勝副会長(当時)を招き、「新しい地方自治制度の動き」と題した講演では、合併の意義や地域内分権など、合併後の行政制度における住民自治への理解を深めていく機会とした。また、これからの高柳を考える「じょんのびツーリズム実践ビジョン作成検討委員会」を作った。半年間で43回もの会議や視察を行い、住んでよしを軸にした5つの基本的な考え方を示した。「住民自身が楽しみ、生きがいや環境保全につながる健康的な暮らしの実現」「民間や共同体、個人が主体となって興す具体的な行動」「高柳らしさにこだわった少量・多品目の自給的な暮らしと技の伝承」「昔からの風景、生活文化、ものづくりのあり方を次世代のために記録・保全・復活・創造」「既成概念や既存の組織にとらわれない考え方や方法での実現」である。これを「風景」「生活文化」「ものづくり」の3つの視点から地域経営の方向性としてまとめた。

■全国の住民自治を住民と行政が協働で調査


 高柳町では、住民と行政の協働で、地域自治組織のあり方を考えるために、全国を調査して歩いた。その調査地は、明治時代から100年以上続く住民自治組織、長野県野沢温泉村の地縁法人「野沢組」や、合併せず自立的な住民との協働をめざす長野県栄村、39年前、長野市への編入合併で辺境として寂れた町を住民自治・NPO法人「夢空間松代のまちと心を育てる会」が蘇らせた長野市松代町から始まった。地域自治区を明確に打ち出した長野県飯田市。茅葺残存率日本一で、集落ごとの自治をめざす京都府美山町。集落全世帯が参加してNPO法人を作りユニークな住民自治を作り出した鳥取県智頭町。30年以上も続く住民自治組織の実績から、6町が住民自治からの新市建設をめざす広島県高宮町川根地区(2004年3月合併して安芸高田市)。永続性のある「まちづくり条例」などによって、透明性のある行政と住民との協働をめざす先進地、北海道ニセコ町などを視察した。私もすべてに同行し、調査を終えた後、住民と行政が一緒になって全町民に向けて町民自ら報告を行った。

■住民自治の高柳モデルへの模索


 2004年12月に、総務省担当者に問い合わせたところ、国の地域自治を重視する合併特例区は、施行されたのが04年11月10日であり、まだ実績はないとのことであった。新潟県で、同じように悩んでいる過疎地域の参考になればと、高柳町の実施した詳細な調査結果を、県が主催する過疎地域の活性化研修会において配布した。この研修会でも、改めて西尾勝副会長を招き、「基礎的自治体における住民自治充実のための新しい仕組み」と題して、合併後において地域の自主・自立をめざすためには、住民自治が必要だということを確認する研修会となった。こうしたことによって、住民自治を前提とした合併後の都市内分権により、編入合併しても高柳町の自治の継承を図り、これまでの合併とは違った住民自治からの地域経営をめざしていく全国的モデルとなっていった。
 さらに、03年には、住民活動を支援する調査研究機関を備えた「じょんのび研究センター」設立のための検討委員会が作られ、1年間、熱心に論議がされた。同時期に、「高柳型自治組織」の素案づくりに向けて、「高柳町自治組織検討委員会」が創設された。部会は3つ、住民と行政のメンバーの協働研究会で、地域全体の住民自治に係る課題について協議・執行する仕組みを検討する「執行・議決機関部会」、生活全般や産業振興など横断的な課題を検討する「専門活動部会」、地区のビジョンづくり、コミュニティ活動、地区サービスの創設、地区資源の管理活用、小さな雇用と経済再生などを検討する「地区活動部会」である。この他にも、主体的に各地区で集落検討委員会を設け、地区活動部会と連携して検討された。04年までに、約80回以上の検討委員会が開催された。

■高柳モデルの住民自治区のイメージ


 高柳地域自治区(合併特例法上の地域自治区・行政区タイプで法人格はない)を設置することを柏崎市と西山町、高柳町で、協議書を交わした。地域協議会を設置し、「新市建設計画の変更」「市の基本構想や各種地域計画の策定及び変更」「公の施設の設置、廃止及び管理運営」「地域自治区の区域内に住所を有する者の行為等を規制される地域の指定に関する事項に係るもの」については、あらかじめ地域協議会の意見を必要とする。 高柳型地域自治区のイメージは、図1のように、非常勤特別職の「区長」と「高柳町事務所」(現在の役場の1,2階)、地域づくりセンター内の「地域協議会」(役場職員も派遣)で構成され、さらに「じょんのび研究・支援センター」(役場職員も派遣)の併設も考えている。現在の役場の3階は、気兼ねなく住民が使用できるように、事務所とは入り口を分けて、バリアーフリーも兼ねてエレベーターで上がれるように改造される。そのスペースには、住民自治活動を円滑に支援・育成できるように、高速通信ネットワークやOA機器も設置され、現在の役場建物を地域の自治活動や、住民との協働の空間として活用していく予定である。
そのスペースを利用できるのは、各集落自治組織や共通課題を解決するために活動する住民組織(地域生活関係、地域振興関係)はじめ、集落を超えて活動する、NPOなどさまざまな住民自治組織(地域おこしグループなど)である。地域自治区の仕組みと行政との協働活動から、高柳町の自立した自治区の形成を可能にできる仕組みである。
また、高柳町では11地区(いずれは4地区)で、住民自治組織を育成している。地域コミュニティが、母都市柏崎市との理解を深めていくためには、行政だけが交流するのではなく、イベントや祭りなどを通じて地域コミュニティの住民同士が交流する実験も行っている。 「高柳型自治組織」の特徴をまとめてみると、地域自治区と連携して活動する2つの住民自治組織が存在すること。ひとつは集落単位で設置され、集落の課題に取り組む自治組織。もうひとつは集落にまたがる共通の課題に取り組む自治組織。ともに設立準備が進む。
集落単位の自治組織である岡田地区では、新しいコミュニティの場として「岡田地域自治振興会」を、2005年5月に発足させる。具体的な取り組みとして、豪雪地帯で高齢者も多いので、有償ボランティアによる、冬囲いの設置や住民が小型除雪機を使って集落の生活を維持する克雪自治活動。元気声かけ活動や給食サービス、送迎や買い物支援活動、集落防災、コミュニティビジネス支援活動などの福祉活動、高齢者の共同住宅の管理など福祉自治活動が検討されている。具体的な活動イメージから発想することで、住民の自治意識は高まってきている。

■住民との協働事業の財源


 合併による新市の将来像の施策の大綱は、「たくましい『住民自治』を育む協働型まちづくりの推進~地域住民がいきいきと活躍するまち」。「住民参加のまちづくり」「地域の自治力の強化」「コミュニティ活動の支援」「支所の住民活動拠点化」が具体的な項目である。 その財源は、新潟県市町村合併特別交付金で、地域自治区事業計画の「地域生活基盤整備事業」(高柳町分)で、2005年度から09年度までの5ヵ年で、3億50万円の予算案で、内容は以下のようである。
地域活動基盤整備事業では、集落センター等のリニューアル、地域づくりセンター(現在の役場の3階)の整備、集落センターの活動備品整備、じょんのび研究・支援センターの構築などで、3390万円(5ヵ年)。
集落克雪活動基盤整備事業では、冬の生活や防災のサポートサービスの調査計画費、ブルドーザや小型除雪機などを配置し、行政に頼らない住民自治から豪雪と戦う仕組みづくりに、5590万円(5ヵ年)。
集落福祉自治活動基盤整備事業では、地域介護や生きがいづくり、農産物共同加工施設や物販施設、工芸品などの共同作業場など、コミュニティビジネスの支援などに、1億9960万円(5ヵ年)。
集落自治再構築事業では、合併後落ち着いたころ、07年から3ヵ年で、地理的・地形的な条件不利地域の集落において、生活や地域振興のための調査から整備まで行うために、1110万円(5ヵ年)。

そのほかにも、新市一体化促進共同事業として、コミュニティ間でのイベント交流やワークショップの開催や、高柳地域紹介展などに2650万円(6ヵ年)。イベントなどで使用する機材・備品を整備することで、地域振興の経費を安くするなど、新市交流促進施設整備事業として、4600万円(2ヵ年)。住民自治のリーダー等人材養成や地域経営などの専門家を招き、協働で地域資源の掘り起こしや活用を図るための、高柳地域自治区人材育成事業として、500万円(5ヵ年)。地域自治区の立ち上がりに関わる事業化計画の策定や自治区のホームページを作成するための地域自治区事業計画策定事業として、900万円。電子自治体時代にふさわしい高度なネットワーク型の行政庁舎をめざし、地域特性に合わせた住民との協働による地域経営をめざした、電算システム統一整備事業に、1億1300万円の予算案を計上している。
以上のように、住民自治区において、住民と行政の協働によって、生活を守り、新たな活力を得るために、ソフトからハードまでを準備している。住民自治組織が絵に描いた餅に終わらないために、周到な準備をしている。

■高柳町の住民自治組織への評価


  高柳町が柏崎市に編入合併されるに際して、これまでの協働による地域づくりという実績の積み重ねにより、地域自治区を勝ち得たことは評価したい。
「高柳型自治組織」は、住民意識改革と協働の長い歴史とその信頼をもとに、住民と行政が協働で全国の住民自治組織を研究した結果得られたものある。その評価すべき点は、行政が得ている全ての情報を住民と共有して進めたこと。また、行政の機能の強化よりも、住民自治組織の活性化を重視する姿勢が住民に共感を得ていること。合併反対の住民の意見もよく聞き、感情的な対立が起きないように、危惧される課題に誠実に取り組み、住民の力をひとつにしたこと。県や国の最新情報をいち早く収集し、また、現場としての悩みや課題を整理した地域情報を、マスコミやネットワークを活用して、県や国に真摯に粘り強く伝えたこと、などが上げられる。こうして、合併によるマイナス面に対応して、人口縮小時代における豊かで幸せな「高柳型住民自治組織からの地域経営システム」を構築しつつある。 高柳町の住民自治組織は、行政との協働により成り立っているが、5年後の保障はない。永続性を持つためには、柏崎市住民や行政の住民自治への取り組みへの理解を得ることだ。それは公共サービスを担保する「協働型地域社会」の実現にかかっていて、まずは成果を出すことである。また、高柳という旧自治体単位では保障されても、他地域はどうなるのかと考えると、そして、柏崎の域内でも地域自治が芽生えないと、高柳地区だけがいつまでも特別自治区でありつづけるのかといった課題もある。
参考になる例は、昨年3月に、6町が合併してできた広島県安芸高田市。新市では旧高宮町の20年以上にわたる住民自治によるまちづくりの実績を踏まえ、市全域に住民自治を行う32の地域振興組織の立ち上げを支援した。「地域を動かすのは組織、組織を動かすのは人」と、地域を元気にさせていくのが組織の役割、組織のあり方で、それぞれの地域の元気さがはっきり出てくると、住民自治組織の温度差を認め、時間をかけた協働のまちづくりを進めている。そして、住民自治組織からのまちづくりを永続性のあるものとするために、北海道ニセコ町を参考に「まちづくり条例」などの制定を考えている。
高柳町が合併する意義は、柏崎市のもつ都市の活力が個性ある高柳町の魅力をさらに伸ばし、それを柏崎市の魅力としていくことができれば、海と山の魅力を結ぶことで地域資源の相乗効果は期待できる。地域の課題を住民自らが発見し解決していくこのシステムがうまく機能すれば行政の効率化となる。  しかし、高齢化は進み、人口減少も進むので、地域を担う次世代の確保ができなくなる可能性がある。新たな起業家を育成する施策が少ない。さらに「高柳型住民自治」は、まだ行政主導である。予算のかなりの部分を住民自身が負担できるようになるか。地域資源を生かす知恵や手法を、住民が中心となって身につけて、持続的な経済へと結び付けていけるか。課題は多い。
 自治への住民の気持ちの切り替えと現在の行政システム、地域の政治との係わりは、極めて複雑で難しい。20~30年間の時間が必要であり、「国の旗印」と「母都市の理解」、「地域の意欲」の3者が揃わないとできない。遠くのあるべき姿を見据えながら、足元から活動を始めることが大事であり、初期の段階では、仕事に専従できる行政マンがその役割を担うこともある。

■おわりに


  少子高齢化は進み、縮小の中の豊かさを追求する時代はすぐそこである。国によって与えられる均質平均的な暮らしではなく、自由意志によって、豊かな時間と空間を選択し、自分仕様の人生を築き上げる。自治体としては、今回の合併の時代を、地域住民とともに「意志ある町を創造するチャンス」と捉えたい。地方分権は住民の意志、責任ある地域経営から生まれるものだと思う。合併によって巨大化した行政は、権力は腐敗するものであるということを考え、権限を住民自治にも分権することである。
行政として取り組むことができなくても、未来へ向けて、多様な自治が必要だと、住民との協働でNPOなどをめざして、住民自治に取り組む人もいる。長野県大町市に編入合併する美麻村では、これまで海外との交流を担ってきた住民組織と行政マンが一緒になって、高柳町や長野市松代町に研修に自費で参加している。また、岐阜県中津川市に編入合併する木曽ヒノキで有名な加子母村の役場職員は、学校の森を核にした住民ボランティアと一緒になって、住民自治組織を作ろうとしている。加子母村役場職員の内木哲朗さんは、「地域に密着した顔の見える、郷土愛に燃えた行政マンが必要なのです。小さな地域での、たった1人のやる気のある行政マンの力は大きいのです。今のままでは、地域文化や、地域の個性は急速に衰退してなくなってしまいます。地方の小さな村の標準値(価値観やモラル、習慣、文化など)を失うと、国全体の標準値が下がっていくことを考えてほしいものです。都市部の標準値に下げるより、地方の標準値に上げる努力をしてほしいと思います。いずれこのツケが都市部に回っていくはずです。『日本の心』をみんなが失わないように」と語っている。地域個性は住民と行政が協働して伝承・創造してきた暮らしの軌跡である。
NPO法人「夢空間松代のまちと心を育てる会」の事務局長の香山篤美さんは、「市民活動の3原則は、自立性・主体性・創造性。いずれが欠けていても真の住民自治活動とはいえない。行政が設置した住民自治組織は、行政統治のための言葉だけの見せかけになる可能性があり 、民意が反映される委員の公募などがないと、住民の自由な発想を奪う抑圧組織になる恐れも感じています」と話す。住民1人ひとりが輝いて生きることができるまちづくりは、抑圧的・独善的な面もある既存ピラミッド型組織でなく、柔軟で発想の自由があるボランタリーなネットワーク組織から、充足感のある未来は開かれる。高柳町が自由で魅力ある住民自治を創造していき、地域の価値を高め、新市の中心が「じょんのび高柳」となる日もあると信じたい。


 参考文献:
「高柳町地域づくりを振り返る」 高柳町 1999年。
「じょんのび読本」 高柳町 2000年。
「じょんのびツーリズム実践ビジョン報告書」 高柳町 2003年。
「じょんのび高柳-市町村合併に関するかわら版」NO.1~15 高柳町 2001~2004年。「自立した地域づくりの継承方策の検討調査 中間報告書」 国土交通省 2004年。
春日俊雄「住民自治の充実・強化をめざして」『地方自治職員研修』 第37巻No.1 2004年 P42~43


「都市問題」第96巻第3号(2005年3月号)特集2「市町村合併の中間決算」

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