2つのタイプの地域リーダー


1.地域リーダーの要件



 全国各地を歩くと、魅力的な地域には必ず魅力的な人物が存在する。「地域づくり」は「人づくり」といわれる所以である。したがって行政などの公的機関が中心となって地域リーダー養成を行う。地域リーダーは育てられるものなのか、要件を備えた人材は発見されるものなのか、などの論点はあるが、人材養成塾などで目覚めた人が地域活動をしていることも事実である。

 これまで、「地域リーダー論」がさまざまに展開され、望まれる要件として、「地域への愛情」「豊かな人間性」「未来への先見性」「果敢な行動力」「ネットワークと情報」「優れた感性」「仲間と助け合う協調性」などがあげられてきた。産業社会の時代であれば、地域リーダーが方向性を指し示し、住民がひとつになって地域が活性化する「主体と客体論」で説明できた。しかし、地域は財政難や少子高齢化などの課題に、市町村合併などの地域再編で迫られ、かつて元気であった地域も昔話になっていることも多い。地域リーダーの存在で、元気で魅力的な地域となるという、単純な因果関係の図式は当てはまらない。



2.2つのタイプの地域リーダー

地域リーダーには「住民リーダー」と、行政など公共的な「組織リーダー」の2つのタイプが存在する。
 「住民リーダー」は息が長く、言葉より生き方や行動によって気持ちを伝えていく。情報発信力のある事業家や人間関係づくりが得意な人、行動的な世話役である人が多い。役割は、先端情報の提供、日常のしがらみから創造的な日々への解放、あるいは地域の課題へ住民意識を集中させるなどである。住民リーダーは、地域の中から自然に生まれ、仲間によって成長していく。土地柄と人柄、地域の風土が生みだす。ただし、年功序列社会による若手資質者の出番のなさや、女性リーダーへの認知度の低さ、新住民と旧住民のすれ違いなど、単に資質問題に帰結しない「地域の懐の深さ」が課題であることも事実だ。

 「組織リーダー」はスパンが短く、強い言葉で住民に情報を伝える役割を持つ。オピニオンリーダーと言われる人や行政、商工会、農協など公的機関に属している人が多い。彼らに求められるものは、方向性の決定やビジョンの策定、明快な目標・戦略・手法などで、内的関係の調整から外的関係の調整までのプロデュース能力である。資質として、人間的な魅力と包容力、理念と目的意識、率先行動力、人情と誠実さ、情報収集力に加え、公平性を保つための第三者的視点を持ち合わせていることが要求される。

 組織リーダーは、地域の状況で、その時、ふさわしい人が発見され、選び出され、現場で学ぶことによって育っていく。しかし、人事や短いローテーションが弱点となり、専門的な力を身につけることができない場合もあり、必要に応じて外部登用もする気概も必要だ。地域内における組織リーダーの力は大きく、地域づくりの本質が理解できない場合やセンスのない人が間違って選ばれることもあり、前例やしがらみに囚われ住民リーダーを押さえつけることもある。組織リーダーは、肌理の細かい確かな情報や迅速な行動をもっている住民リーダーの存在をなくして、魅力的な地域づくりができない。混迷の時代の地域リーダー像は、2つのリーダーの組み合わせにヒントがある。

3.個性と自生的秩序

地域での役割の固定化は地域内秩序を生み出し、マンネリズムから変化のない退屈な生活を生み出す。現代は人、時間、もの、ことが過剰であり、過剰が退屈となり、生きる意欲をなくさせる。複雑系の学問では「秩序」と「カオス」の中間にある「カオスの縁」がもっとも活性化した状態と言われる。満腹でも餓死寸前でもなく、うっすら飢えた状態で、そこではボトムアップ型の自己組織化が起こりやすい。

 年々汚れていくまちの風景やゴミの投げ捨てから始まって、伝統や文化も行政の責任ではなく、住民自らの行為の結果、守られ、革新されていく。今まで通り、住民リーダーやマスコミが地域のすべての責任を組織リーダーが負うべきだと考えることで、自らの自由を失う。住民リーダーは、やらねばならぬと思えば自らが行動し、責任を負うことによって、より自由に、より創造的に生きることができる。住民自らが変わらないと、地域をよりよい方向に変えては行くことができない。

 一方、組織リーダーには地域リーダーのモチベーションを高めることが求められる。地域リーダーは地域の中で生き、自らの生活の視点で地域の夢を実現しようとする。それ自体が自らの仕事でもある組織リーダーは、そうした地域リーダーの想像力や行動力を生かしていかなければならい。住民自らが行動し、自由や創造を手に入れることでエネルギーと生き甲斐を得る。組織リーダーは地域の夢のすべてを持っているわけではない。まちは住民の夢の総合体で、相互作用によって、役割が変わっていくものなのである。

 両者の関係は、主体と客体の関係ではなく、相互主体的な関係なのである。違ったタイプのリーダーが複雑に相互作用することで、地域の均衡秩序が壊れ、新たな秩序が生まれる。したがって、組織リーダーには、地域内に活発なコミュニケーションが生まれる場を創出、住民自らが自己組織的に「主体的な意欲」を引き出す場づくりが求められる。一人ひとりが当事者となることと持続した行動から、信頼の絆が生まれ、つき従う人が出ることで、住民リーダーが次々と誕生し、地域に自ずと自生的秩序が生まれる。住民の相互作用の中から、時代にふさわしい人物がタイミングよく選び出すことが大事なのである。

 地域活性化とは、現場主義に徹底し、ダイナミックで持続発展力のある関係性をデザインすることだろう。夢を持つ人が地域リーダーとなって、NPOなどの組織を創設し、人や地域に希望を与えることである。地域リーダーが本質的な地域文化から取り組み、組織リーダーのサポートを得ながら、ユーモアとバイタリティをもって未来を思い描き、わくわくドキドキさせてくれる楽しい町を創り出すことを期待している。未来は予測するものではなく、発明するものである。

 (地方シンクタンク協議会発行「地域研究交流」原稿)

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